好き度
ずっと気になっていたのですが1年を経て購入しちゃいました。夜眠る前に読む、というコンセプトのアンソロジー。pha氏が解説で言うように、歌を並べただけだと取っつきにくいので、鑑賞のヒント、ひとつの解が示されていることが大変ありがたいです。自分だけでは意味すら取れなかった歌も楽しむことができます。めちゃ偏見なんですけど、京大短歌会なんて名門にいた人がそういうこと考えてるんだ……と意外でした。一首をよく自分で味わえばいいのだって言いそう、と歌人に対して勝手に思っているので……。昔から敷居を下げてくださる方はいらっしゃるし、何事もどうしても歴史を踏まえないと分かりにくいこともありますしね、己の偏見を取っ払わなきゃいけないですね。
選りすぐりですから全部よいのですが、いくつか好きな歌を。
目を閉じる度に光が死ぬことや目を開ける度闇が死ぬこと
20頁。出典:木下侑介『君が走っていったんだろう』
ものの見方を逆転させてハッとする景色を見せてくれるのが短歌のいいところ。光も闇も裏表の関係であること。光は闇に、闇は光に。何かを捉えるということは何かがこぼれ落ちるということ。
月を洗えば月のにおいにさいなまれ夏のすべての雨うつくしい
26頁。出典:井上法子『永遠でないほうの火』
この歌集持っていますが、一読して素敵…!と心に入ってきます。静かに細く淡く銀色に光る雨が浮かびます。月の匂いってどんなんでしょう。きっと全てを高みから見守っている人類の母なような…。
このタオルケットがないと眠れない これも政治が悪いせいだろ
50頁。出典:遠藤健人「短歌研究」2022年7月号
ちょっとネットミーム的な面白さがある。Twitter上で文句垂れた締めの言葉に「これもイーロンが悪いせいだろ」と持ってくるような。我儘いってる大人みたい。
灯は街にしずかに満ちてこの夜もきっと誰かの時効の前夜
96頁。出典:toron*「塔」2022年5月号
ドキッとする歌。あたたかな橙色の灯る頃、まどろみに入る頃、優しい世界が内包する恐ろしさ。自分の罪深さ。夜の暗さに浮かび上がる明るい灯。
なつかしい夢しか好きなものがない あなたもはやくなつかしくなれ
112頁。出典:伊勢谷小枝子『平熱ボタン』
嶽本野ばらの小説で「私は古いものしか認めない、愛せない」と話す登場人物がいたな~とか、村上春樹の小説でしたか、小説家は死後50年経たないと読まない、というようなこと言っていたような……と連想しました。もう手が届かない物になってから安心して愛でることが出来る。
明けがたにいちど目が覚めてゐたことは言はないでおく まぶしい部屋だ
114頁。出典:山下翔『meal』
二人が溶け合うことはない、ってのが性癖(誤用)なのです。覚めて「ゐ」たってのがいいですね。一人の時間が染み渡っている感じがします。
終バスにふたりは眠る紫の〈降りますランプ〉に取り囲まれて
180頁。出典:穂村弘『シンジケート』
レジェンド歌人ですが、なかなか難しくて……でもこの歌はすごく好きです。バスの中肩を寄せ合い手を繋ぎ眠っている若人の絵がパッと浮かびます。降車ボタンも幻想的な光となり。
ねえジュゴン青いめぐりの水ももう硬くなることおやすみジュゴン
182頁。出典:渡辺松男『雨る』
意味が取れなかったのですが、添えられた文章を読んでなるほどと。限られた文字数の中同じ言葉を繰り返す歌は特に練られているのですよね。
世界じゅうのラーメンスープを泳ぎきりすりきれた龍おやすみなさい
198頁。出典:雪舟えま『たんぽるぽる』
ファンタジーな発想が素敵な可愛い歌。長年使い込まれた器に感謝の気持ちが湧いてくる。
きみが飛ぶ夢を見るからあの鳥が飛べない夢を見る熱帯夜
200頁。出典:木下龍也『オールアラウンドユー』
バタフライエフェクトならぬバードエフェクト。誰かの何かの犠牲と引き換えに手に入れている幸せ。
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