好き度
作者 宇野なずき
発行 2023年1月
同タイトルの第一歌集が2017年12月に出されたとのことで、私が所持しているのはリメイク版第一刷です。変更点は後書きによると
・何首か詠み直し
・2編の書き下ろし連作を追加
最初の歌集を持っておらず比較が出来ないのですが、大幅に変わってはいないのかな?と想像します。
白のマットな表紙に黒のシンプルな縦書きタイトル、Ctrl Zキーの絵が周囲に配置されています。裏表紙はそのカラフルなキーたちがバラバラと積み重なり崩れ落ちている様。
中もごくシンプルに目次があり、そのあとは1ページに3首ずつ、最後に後書き、奥付け。
現代仮名遣い・口語を使っていて平明で、冷めたようなトーンで、真っ暗ではないけれど太陽燦々でもなく。
意味が取れないよ〜って苦しむ歌は少ないので助かります。共感できる!というだけで短歌を見るのはちょっと、ですけれど、あまりにも美しく難解な歌ばかりですと疲れてしまいますから。
わかりやすい現代の若者ぽい歌となると露悪的散文的ベタなエモーショナル……とお手軽摂取ポエムに落ちてしまう危険があると思うのですが、歌人の凄さはちゃんと歌として纏めるところにあるんだなあと感服する次第です。
では好きな歌をいくつか引用させていただきます。
月を見てうどんを思い出しているまたふたりで月を壊したい
41ページ「ひかりってひらがなで書くひと」
上句でふむそうなんですね、からの下句そうくるか〜!好き〜!って初見惚れ。綺麗な月であることよ、と風流に浸るかと思いきや食べ物かい〜花より団子ってやつね……っと二人で食べた月見うどんかぁ〜!いいな!いいな!
……すごく馬鹿みたいな感想でごめんなさい……でも月を壊すって素敵じゃないですか?一緒に作ろうや食べようじゃなくて、まんまるな黄身に箸を入れどろりと溢れ出す、月光があたりを照らし出すように、そこを描いているのが。ささやかな暮らしの中のワンシーンだけれど、温もりとやや翳った思いもあるような。
同時に上句の地上から空を眺めているビジュアルから、下句で宇宙で月を破壊しているファンタジーにガラッと変わるのも浮かんできます。もしかしたら二人は衛星を叩いて回った休憩にその破壊の跡を見物しながらうどんを啜っていたのかも。……そんなわけはないのですけどね、幻覚が浮かび上がるのも素敵じゃないかな。
ふたつめはこれ。
僕が生き返れば加害者になるから心臓マッサージをやめてくれ
59ページ 「最初からやり直してください」
これは惚れた!という感じではなく、胸がギュッと掴まれた一首。僕はあなたのせいで死んじゃうとはよく言いますが、逆に僕を生き返らせることがあなたの罪になる。
「心臓マッサージをやめてくれ」というリズムも自分の中に全然ないなあって思います。
みっつめはこちら。
もしきみが世界を敵に回したら最初にやられる敵になりたい
64ページ 「愛」
はあ〜なるほど!「君」ではなく「きみ」と表記するところも詩人の拘りがあってよいですね。
きみと二人で世界から逃げるのでも破壊するのでも再構築するのでも隅っこで生きるのでもなく(これらは私の性癖です)、世界の一部として向き合いたいと。きみはもしかしたら「きみと僕」になれない世界に絶望したのかもしれません。
すごく好きですけど、もう少し読み込みたいなと置いてあります。
と、このくらいでしょうか。BOOTHで購入可能ですから(2024.3月現在)、気になった方はぜひご本をお迎えください。たしか作者様はついったー(Xなどと無粋な名で呼ぶものですか、私はそう固く決意しております)のアカウントもお持ちのはず。
毎回思うんですけど短歌について書くには語彙も表現力も足りない。詠む人も批評する人もすごいと思います。