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風のアンダースタディ

参考資料(短歌)

好き度 3.8

作者 鈴木美紀子

しんとした張り詰めた空気、孤独感、冷たさ、そっとある優しさ、ちょっと毒のあるユーモア、透明感。感傷に溺れない描き方が素敵。

シャンプーを変えるきっかけほしいからあなたのことを好きになろうか

10ページ グリンピースが残されて

いい香りのシャンプーにしよう、あの子が好きそうな香りはどれだろう、だったら甘酸っぱい青春の歌なのに、反対にシャンプーを変えたいがために!

強がりなんでしょうか。恋だなんて認めたくないのでしょうか。「ねえねえシャンプー変えた?」「うわホントだ!イメチェン?」「なになに好きな人出来たの?」そんな鬱陶しい会話を流すために好きな人が必要なんでしょうか。いや、本人は純粋に変えたいと思っているだけ。そう思っているんだけど、好きになろうかとふと考えている時点でもう恋は始まっているのかもしれない。

初読時は好きになることなんてどうってことない、運命でも激しい恋の果てでもない、なんてことない切掛どころか不純な、悪戯でさえある動機から日常になっちゃうものと言いたいのかなと読みましたが。そのお相手にあなたを選ぶ時点でそんなに酷い話でもないよと。ピュアじゃなくても恋は恋だよと。

そばにいるひとにはきっとわからない擦れ違うときあなたは香る

54ページ 打ち明けるゆび

整髪剤も香水もシャンプーも自分じゃどのくらい香ってるのか分からなくなってくる、ずっとそばにいる人もまた慣れてしまって分からなくなる。香りがしてもいつものことだから気にしない。あなたのそばにいない私だから、いつも擦れ違うたびに微かな香りを感じるんでしょう。あなたの香りだ!と嬉しそうな景色には見えないな……。あなたと私は一緒だって馴染んでしまえたらいいのにって思いもあるのでしょうか。それは叶わない願い。あなたは他人。あなたはあなた。「擦れ違う」と漢字表記なのも好きですね。

ほんとうはあなたは無呼吸症候群おしえないまま隣でねむる

69ページ 無呼吸症候群

初読でこちらの呼吸が止まりましたね。とってもいい歌で、なにかの本でも取り上げられていた気がします。ダイレクトに怖い。しかも自分で手を下すのではなく、死んじゃっても構いませんから、という態度でいる。隣でねむると言うけれど無呼吸症候群なのは知ってるんですよね……今日もあなた死んでないのねと冷めた感情で見つめた後に自分も寝ているのか。というかそこまで思っていて隣に寝っ転がる関係を解消しないんだ。怖い。

ハイフンかアンダーバーかわからないアドレスだけが夏の手掛かり

84ページ 海は逃げない

幻ではなくたしかにあるんだけれども、あるんだけれども。どちらを試してもきっと私はあの夏の人に出会えない気がします。出鱈目なアドレスを教えられたとか、ハイフンでもアンダーバーでもないとか、そういうことではなくて。本当のことだったけれど、それでも私はあの夏でしかあの人に会えなかった、そしてそのことだけ覚えて生きていく。少しくしゃっとなったメモの切れ端に走り書きのボールペンの字。

二人用の柩はないと知ったときあなたに少しやさしくなれる

88ページ 海は逃げない

どんなに愛した人がいても人は必ず最後には一人。あなたも私も。みんな孤独。苦しみも悲しみも喜びもすべてを分かち合うことなど出来ない。可哀想にも!だから精一杯あなたを抱きしめるよ……ではなく、少しやさしくなれる、というのがいいです。……と書いていたところで、後書きにもっと的確で綺麗な解読があることに気付きました。まあでもこれが素人の読みだよ!えい!

紅茶葉をひらかせながらこの秋も平年並みのさびしさでした

103ページ 風のバラード

「ひらかせながら」の平仮名が好きです。葉っぱがゆっくりとお湯に溶け広がっていく様。一人で簡素な白のティーカップで。紅葉狩りの季節はとうに終わっており、枯れ葉がひらひらと落ちていく。孤独だけど冷え切った感じではない。毎年のセンチメンタル。寂しいけれどいつものこと。温かい紅茶を静かに飲むという、かわす術も持っている。……合っていますか?私は短歌が読めなさすぎて、いつも勝手な想像をしてしまう。

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