好き度
作者 寺井奈緒美
出版 2019年4月
タイトルがいいなと思って買った短歌集。烏の鳴き声ってカァカァと聞きなしされるけど、たしかにアァ、と言ってるかもしれないな…と思って。この鳥は烏じゃないかもしれないけれど…。
優しいけど甘ったるくはない歌たち。
つなぎ目の向こうの車両のひとたちが少しズレつつ揺れている朝
10ページ
前の車両が揺れてからこちらも同じカーブで揺れる。前後にゆらゆらとバランスをとりながら立っている乗客達。一律じゃないけど揺れているのは同じ。みんな同じ人間だけど絶対に分かり合えない部分はあって、でも同じように同じ時間に詰め込まれて出勤している。電車は社会の縮図。でもちょっと怖い感覚もあって、もしかしたらおんなじ人間じゃないかもしれないよ?そのズレは…という読み方もあるのかな。少しズレてるのは揺れのリズムだけなんだろうかって。世界ごとズレてるんじゃないかって。そして誰かから見た私もまた。
いちばんに目覚めた者は恐かろう春はほんとに存在するか
96ページ
上で言い切ったことを何が?と下で説明するタイプの歌。SFっぽさも感じました。この歌からは低い呟きのような声が響いてきます。歌の中に出てくる言葉は春だけど、イメージされるのは凍りついた大地、一面覆い尽くす雪と氷。目をぱちりと開けて身体を起こし、飛び込んできた景色に愕然とするの。でも怖いだろうねって想像してるだけだから、実際は大丈夫なんじゃないかな。
たったひとりの誰かさんの指先を待つ百均のシャチハタコーナー
129ページ
恋って愛ってこんなもんじゃないのかな。けして絶望ではなくて。お互いぴったりハマる運命の人は特別なあなたと特別な私でしか成立しないものです、なんて違いますもん。似たり寄ったり有象無象の中で、たまたま出会って、一緒に過ごして、それで育まれていくもの。それで私とあなたはたった一人の誰かさんだったと知るんです。運命だから出会ったんじゃない。出会いが運命になるんです。そう希望を持っていないと生きていられないでしょう?選ばれる魅力をもたない私では。