更新停滞・作品ほぼ消滅中

2026/2/8留文オンリー全文サンプル

特別展(掌編)特別展

全年齢とR18短編集の予定は爆散し、雑多SS7本まとめ本になりました。
加筆も推敲もしていません……あらすじ本です……SSなのに……。
どんな留文でもコレクションしてやるぜ!というマニアの方へ。

pixivにも全文掲載しています。
時期が過ぎたらサイトでは常設展へ個別掲載します(やる気が出たら全面的に書き直したい)。

先頭に数字がつくSSはタイトルをお題サイト「確かに恋だった」様よりお借りしました。

◆グループ実習はいつも貧乏くじを引く奴がいる(室町)

月が煌々と照らす夜。旅人たちを優しく包むその光も、闇を愛す忍者にとっては不要なもの。しかしどんな夜であっても言い訳は通用しない。引き受けた忍務は完遂する、それがプロの──プロを目指す忍者のたまごの矜持である。
久々の学年実習(つまり六年生全員を駆り出す規模の依頼である)は、学園からほど近い港町が舞台だった。上級生であれば一日で往復できる。
「こんな夜についてないな」
空を見上げながら小平太が言うと、前を歩く留三郎が振り返る。
「敵は商人だろう?どうとでもなる」
「普通ならそうだが。奴隷商は警備も硬いだろうしなあ」
「舐めてかかった留三郎クンが捕まるのは勝手だが、俺たちの邪魔はするなよ」
「なんだと文次郎!」
「やめろ、忍務の前に喧嘩してどうする!」
 掴み合う文次郎と留三郎がしぶしぶ離れると、仙蔵はため息を吐いた。
「まったく……『オークションを止めさせる』など初めてのことだというのに」
過度な緊張はよくないが、敵を侮るのだって三禁なのだ。昼から歩き続け、もう風に潮の香りが混じっている。港につけば賊のアジトはすぐ近くのはずだ。お遊び気分は捨てなければいけない。
「話を聞いたかぎり簡単そうに思えるが……我ら六人がかりなんだ。気を引き締めて行くぞ」
仙蔵の言葉に五人は表情をあらためた。
「それでは条件を確認しておこう――」

***

学園長の庵に召集された六人は、聞きなれぬ言葉に眉を顰めた。
「おーくしょん、ですか」
「そうじゃ。南蛮の言葉での、奴隷市のことを言うそうじゃ」
戸惑う六人を前に学園長は答えた。広げられた地図を指さし、
「港近くの村人から嘆願されての。人狩りが頻繁に現れるようになり、危うく難を逃れた娘が跡をつけたところ、この港に人が集められていたとのことじゃ」
「敵はいかほど」
「少なくとも二十はおろうが、なにぶん村娘ひとりの証言のみじゃ、確かなことは分からん」
「救出対象は」
「その村は五人と申しておったが、各地から集めているようじゃからの」
「……不明な点ばかりだと」
長次が小さく言うと、学園長は頷いた。
「そうじゃ。調査も含めて六年生の実習とする。危なくなれば採点の先生方が助けてくれるじゃろう。今夜にでも出立するがよい」
そうしてほとんど情報のないまま忍務に向かうこととなったのだった。

「まず役割分担だが、ろ組が陽動、は組が表から入った隙にい組が潜入。い・は組が合流し救出。問題ないな?」
「文次郎と留三郎が喧嘩さえしなければね」
 仙蔵の念押しに伊作が答える。文次郎は嫌そうな顔をして声を上げた。
「こいつが突っかかってこなきゃいいんだよ」
「俺のせいだっていうのか⁉」
「……そういうところだ」
即座に反応した留三郎を引きはがし、長次がにたりと笑う。
「……前の忍務もそうだった。おまえたちが喧嘩して、焙烙火矢が爆発して、伊作が罠にかかって、全部駄目になった……」
「あれは伊作が見えたせいでバレたんだろ!」
「おまえ!伊作のせいだってのか!」
「あ~だから喧嘩するなって!」
今度は伊作が二人を引き離す。一言発するたびに紛糾する会議に飽きたのか、黙っていた小平太がついに発言した。
「恋仲なんだから仲良くすればいいのにな」
しんと沈黙が落ちた。
「変な嘘つくな!」
「なんで知ってるんだよ!」
文次郎と留三郎が同時に叫ぶ。
「おまえ嘘ってなんだよ嘘って!」
「おまえこそ隠せよ!」
ぎゃんぎゃん吠え合う二人をよそに、呆れた表情で伊作が小平太に言った。
「今ここで言ってどうすんの?見ろよ、火に油を注いだだけじゃないか」
「すまん。あまりにも話が進まなくてつい」
なはは、と笑う小平太に反省の色は見えない。
「でもみんな思っていただろう?」
「まあな」
仲裁を諦めて仙蔵が隣に座る。
「あいつらが恋仲になれば、計画通り忍務を終えられる……そう期待した時期もあった」
「デートもしてそうにないし、夜も部屋にいるし。犬猿は犬猿なのかもね」
「もそ」
ついに武器を持ちだして殴り合いだした二人に背中を向け、四人は寝床の準備に入る。
「仮眠したら出発するぞ。港からすぐだから」
声をかけた伊作の頭に、返事代わりに槍の柄が飛んできた。

***

四半刻後、大きな屋敷の裏に六人は潜んでいた。
「ここが商人たちの出入りしていた家だ」
「見張りはいないようだな」
「塀も低い。罠もなさそうだ」
素早く周囲を探り、矢羽音で情報を交換する。
結局喧嘩し続けていた文次郎と留三郎は一睡もすることなく歩いてきたが、いまだ小突きあっているところを見ると元気だろう。仙蔵が合図をかけ、号令を発そうと口を開いた瞬間だった。
「問題なさそうだな。それでは──」
「だから!留三郎が悪いんだろうが!」
「いつもそうやって人のせいにするよなおまえは!」
文次郎が留三郎の胸倉を掴み上げた。対抗して留三郎も掴み合い睨み合いの態勢になる。
「ちょ、声が大きい!」
慌てて隣の伊作が止めに入るもすでに遅かった。曲者だ、と一声。すぐさま廊下を走る足音が響き、庭を駆ける人々の喧騒が届く。
「散れ!」
仙蔵が命じた時にはすでに忍びたちは姿を消していた──掴み合って地面を転がる二人を除いて。はっと気付いた時には引き立てられ、文次郎と留三郎は後ろ手に縄をかけられていた。男達はみな屈強な身体をしていて、商人には見えない。雇われの用心棒だろうと察せられた。
「なんだこいつら」
「こんな夜に人の家で喧嘩とは、いったい何を考えている?」
背の高い男が覗き込むようにして留三郎を詰問するが、むっつりと黙って答えない。
「村の者が取り返しにきたってとこだろ、どうせ」
文次郎の前髪を引っ掴んだ別の男が言う。
「おい、正直に言った方が身のためだぞ。どこから来た?それとも誰かに依頼されたか?」
「……」
「無駄だろ。それより急ごうぜ。始まっちまう」
「こいつらどうします?」
無言のまま睨みつける二人を立ち上がらせると、リーダー格らしい男がねっとりと視線を滑らせた。
「けっこういい身体してんじゃねえか。こいつらも連れて行こう」
「ええっ、今日は女子の日でしょう」
「べつに決まってるわけじゃねえ。客がいらなきゃ後でたっぷり可愛がってやる」
「またそんなこと言って。鉱山でもなんでも男の売り先はあるんだから、壊したら怒られるぞ」
「バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ」
軽口を叩きながら男達は二人を家へ連れ込んでいった。

「……どうする」
茂みから見守っていた伊作が言った。
「計画を変更するしかないだろう。娘たちが多ければ四人じゃ人手不足だろうしな……あいつらの救出を最優先で行う」
仙蔵はため息を吐き、
「補習デートしたいなら二人だけの時に願いたいな!」
小平太の軽口に乗っかる気力もなく頭を抱えたのだった。

***

おとなしくしてろ、と文次郎と留三郎が放り込まれたのは屋敷の備品室と思しき一室だった。冷たい石牢でないだけ有難いが、それよりもっと納得できないことがある。
「近いんだよ!」
「仕方ねえだろ繋がれてんだから!」
後ろ手は解かれたものの、文次郎の右手首と留三郎の左手首に鉄の輪を嵌め、これも鉄製の短い鎖が間を繋いでいる。足首も同様にして縛められており、同時に動かさねば一歩を踏み出すことも出来ぬ有様だった。
「腿が触れてるんだよ、もっと離れろ」
心底嫌そうに文次郎は足を引き寄せ、引っ張られてバランスを崩した留三郎が抗議する。
「無駄に動くより自然にした方がいいだろうが」
「おまえと寄り添ってるなんて不自然極まりない」
その言葉に留三郎は吊り上げていた眉を下げ、やや躊躇って言った。
「……おまえ、俺と触れ合うのがそんなに嫌なのか」
沈んだトーンを訝しみ文次郎が顔を向ける。
「俺は、もっとおまえに触りたいのに」
留三郎は真剣な表情をしていた。その目を見ていられずに思わず逸らす。
「それとこれは別だろう。今は忍務中だ」
「その忍務に支障が出ている。考えるべきじゃないか?」
そっと文次郎の肩に自身の肩を寄せ、留三郎は続けた。
「気付いてないのか?俺が触れた途端にいつも飛びのいて。せっかく恋仲になったのに喧嘩ばかりじゃ寂しいって、俺は思う。もちろんおまえとの勝負は楽しいけど……おまえの手も、足も、髪も、ぜんぶ……愛でることが出来たらと思ってる。おまえもそうじゃないのか?だから恋仲になったんじゃないのか」
言葉とともに身体につつと指を滑らせ、文次郎の頬にそっと右手がたどり着いた。今度は文次郎の目が逸らせないように、やさしくも固くその手を添える。薄く開いた唇に唇を近づけたその時――
バキッ。
文次郎の拳が留三郎の顎を襲った。
「いっってえええ!何しやがる!」
「おまえが悪い!いきなり盛りやがって!」
双方真っ赤な顔で怒鳴り合う中、
「まだやってんのか。懲りない奴らだ」
呆れた声が外から響いた。
「邪魔だ邪魔、まったく……牢に入れればいいものを、なんで備品部屋に置くかね」
どうやら男は荷を探しにきたようで、棚を漁り始めた。
「手錠がリストより少ないな。おいおまえら、盗んでないだろうな」
せいぜい二、三歩動くのがやっとな二人へそんな軽口を叩く。
「こんなバカを捕まえるからだぜ、放り出したほうがあんたらの為になる」
「はあ~⁉こいつこそ無駄に仕事をブラックにしやがるしケチなんだぜ、奴隷なんかつとまらねえよ」
「何だと⁉」
「やるか⁉」
「そのなりじゃ喧嘩出来ないだろうが。黙ってろ」
もはや呆れを通り越した声音で男がいい、二人は再びそっぽを向いて座り込んだ。

「……全然元気そうだ」
「……置いて帰りたい」
その天井裏では長次と仙蔵が死んだ魚のごとき目で二人を見下ろしていた。小平太と伊作は陽動準備中だ。
「このぶんじゃ私たちの気配にも気付いていないか」
「学年実習でなければ本当に置いていくぞ、あの阿呆ども」
「……立ち上がったな」
「『小平太ならこんな縄ちぎって逃げているのにな』『長次なら捕まるような間抜けではなかったな』『おまえが先走ったせいだろ』……どっちもどっちだろうが……」
何度目かしれぬため息を吐き仙蔵が実況する。立ち上がった二人は再び罵り合い、殴ろうとして鎖に邪魔され、再び座り込んでいた。
なおも見ていると今度は二人、男が入ってきた。
「ん、動きそうだ……」
備品を確認していた男とともに、二人を引っ立てた男達は部屋を出ると、行きと異なる方へ進む。
「人狩りたちの元へ行くのかもしれない」
「つけよう」
長次と仙蔵は素早く天井から飛び降りた。

屋敷のどこを探してもいなかったから、集められた人は売るために舟に移動させられていると思っていた。だが予想に反して男達は屋敷を出ると小さな家へ入っていった。
「ここは報告になかったな」
仙蔵がいい、地図に書き起こしながら長次も首肯する。
「まさかこんな場所とは思わなかった」
外観は目立たず、とても大がかりな取引会場とは思われない。足音を忍ばせて入っていくと、大きな部屋があった。暗闇の中壁に松明が輝き、階段を上って至る広い壇上は明るく照らされている。それを見ることが出来る数段下の空間にはぎっしりと椅子が並べられ、南蛮人や金持ちそうな日本人が座っていた。彼らの顔はみな期待と嗜虐心に満ちている。その視線が向かう先は壇上の女達。灯火の下さらされた彼女らは哀れなほど震えており、泣きはらした顔に殴りつけられた跡もあった。
「……なんて酷い」
低く呟いた長次の言葉に仙蔵も頷き、
「絶対助けよう。まずは阿呆どもを解放してからだ」
文次郎たちはどこだ、と目線を走らせるがその必要はなかった。女たちの後ろから、二人が引きずり出されて中央へ据えられたのだ。鎖を床に設置された杭にしばりつけられており、身動きを封じられている。
すると恰幅のいい男がひとり、檀上に現れた。
「たいへんお待たせしました。今夜は特別商品からご紹介させていただきます」
客からざわめきが上がる。女を買いに来たんだぞ、と一人が声を上げた。
「もちろん承知しております。しかし男だからといって捨てるには勿体ない、上玉でございます。一度じっくり御覧ください」
お近くで見てはどうです、と声をかけられた客の一人が階段を上がる。こちらを睨みつける二人だが、縛めの身では何も怖くない。怒りと恥辱に上気した頬、十五歳のすらりと鍛えられた筋肉、健やかに伸びやかに育った美しい手足。はだけられた着物から覗く胸元はしっかりと厚く、ほんのり色づいた乳首が見えて――。
「……たしかに、これは」
「そうでしょう」
息をのんだ客の反応に満足げに返し、男は留三郎の顎を掴んで見せた。
「あちらはまあまあですが、こちらの商品は実にいい。きりりとした目が潤むところなぞ、さぞ見ものでしょうな」
「この野郎……っ」
「抑えろ」
同級生がいいように扱われる怒りに長次が唸る。なだめるように仙蔵が肩に手を置くが、その手もぎゅっと力がこもる。
「……というか、文次郎の男前ぶりに気付かぬとはなんたる間抜け……」
「え……そこか?」
仙蔵の言葉に拍子抜けして、思わずといった風でこぼれる。
「客観的に言って留三郎がイケメンなのはそうだろう。別に文次郎のことを――」
貶めたわけじゃない、という台詞は聞こえなかった。
「俺がコイツより悪い顔だってか⁉」
文次郎の声が響き渡る。
「いや、どう見たって俺の方がカッコいいよ。諦めろ」
「はあ~⁉こんな目つき悪いのがいいとか終わってるぜ、あんた」
「目つき悪いのはおまえだろうが!」
こんなところでも喧嘩するのか、とか、い組の感性ってよく分からないな、とか長次の頭には様々な感想が浮かんだが、ただ一つ「馬鹿じゃないのか」と口から出した。
客たちは面白がって「わたしはおまえの方がいいな」などと文次郎に声をかける者もいる。
「ほら見ろ!留の野郎にはない魅力がわかる奴にはわかんだよ」
「マジかよあんた……目、いや……頭大丈夫か?」
本気でドン引きする留三郎にまたしても文次郎が噛みつく。
「おまえの審美眼は信用できないんだよ」
「はあ?もんじの顔が可愛いって言う奴は俺だけでいいんだよ!」
終わらない騒ぎに奴隷商も呆気に取られていたが、二人の頭をはたく。
「静かにせんか!商品だぞおまえたちは!」
「「黙ってられるならこんなとこ来とらんわ!」」
声を揃えて反論され、投げやりに男が言う。
「そんなに仲がいいなら口付けでもしてみろ」
これは特に深い意味なく放った台詞であった――あまりにも煩いので、つい。もはや痴話喧嘩だろって台詞を吐いていて、犬も食わぬ喧嘩をずっとしているものだから。
だがその瞬間空気が変わった。
「据え膳食わねば男がすたる、ってな」
留三郎が静かに言うと、すいと首を傾けて文次郎の唇へ軽くその唇を落とした。目を見開いた文次郎を見て微笑むと、再び。ちゅ、と軽い音を立てて吸い付く。
「……ほら、おまえも。怖くないだろ」
ゆっくりと離れ、普段ならば煽るように言われる言葉も、吐息混じりに囁かれればまったく異なって聞こえる。薄い唇を柔らかな笑みに形作って、情欲の滾る瞳に見つめられて、おまえからもしてほしいと懇願されて拒める者があろうか。文次郎は目を伏せると噛みつくように口付けた。勢いに驚いたようであった留三郎だが、すぐに応えるように口を開いた。顔の角度を変え、何度も何度も口づけるうちに、もどかしい気持ちが抑えられなくなる。文次郎は舌を伸ばし留三郎のそれを躊躇混じりにつつく。嬉しそうに目を細めた留三郎がぐんと舌を絡める。唾液が口端から垂れるのも気にせず貪りあう二人の空気に客も商人も釘付けになる。
しんと静まり返った会場で、ぴちゃぴちゃと二人の音だけが響いていた。何秒、何分、いやいくらも経っていなかったかもしれない。それは突然だった。
「――伏せろ」
気付いた長次が仙蔵と床に伏せるや否や、部屋に煙が立ち込めた。バチバチと火の燃える音もする。
「っ、小平太か」
「すまん遅くなった!」
煙幕から影が現れ、二人に鳥の子を投げ渡す。
「私は奴らを相手する!留三郎と文次郎を頼む」
客たちを昏倒させながら小平太が言い、仙蔵たちは急いで壇上へ向かう。
煙が晴れた頃には、舞台に誰もいなかった。

「――だから、もう少し粘れば加点されたかもしれないだろうに」
「あの状態でか⁉」
文次郎が不服を申し立てる。
「時間稼ぎでコイツと人前で口づけさせられたんだ、もっと労わってくれたって罰は当たらんぞ」
「自らピンチを招いておいて何を言う」
ぴしゃりと仙蔵が言い放ち、留三郎にもじろりと怒りの一瞥をくれた。
「うまく事が運んだからいいものの、お前たちときたら……!」
「仙蔵の言う通りだ。私ひとりで陽動するのは結構きつかったからな?」
「……前と同じ過ちを繰り返すな……」
長次と小平太も厳しい。
なんとか娘たちを解放し、朝になれば迎えが来ると安全な場所に移して、下人を尋問しすべての商人たちの居場所を吐かせて、もうすぐ夜明けの刻限だ。実習兼忍務のタイムリミットまで危ういところだった。
「……合格したんだからいいだろ」
「採点結果はまだだろう。まったく」
仙蔵が文次郎の悪あがきのような呟きを切り捨てるとそれからは沈黙が下りた。

学園に到着し、疲れ切った六年生たちはそのまま就寝へとはいかず、教師に指定された教室へと向かった。危険になれば手出しするはずが何もなかったから、及第点ではあったのだろう。……たぶん。
戸を開けると、笑いをこらえた教師が待っていた。
「お疲れ様。よくやったな、おまえたち」
無言で頭を下げる。
「だがなあ、あのやり方は無理がある」
ここで教師は我慢せず吹き出した。
「娘たちが攫われているのだから、女装して潜入でもすると思いきゃ……いや、お前たちが喧嘩するのは常のこととして……あ~駄目だ!すまん!」
ついに腹を抱えて笑い出した教師に向かい、むっつりと仙蔵が言う。
「文次郎と留三郎以外は合格でよろしいでしょうか」
は?と犬猿が慌てる中、教師は目に浮かんだ涙を拭いながら答える。
「あ~、いい、いい。ここにいる皆合格だ。は~……にしても口付けで爆発でって……くくっ」
そういえば教師にも見られていたのだと思いだした文次郎と留三郎が真っ赤に染め上がった時、
「遅くなりました!」
開いた戸の先に伊作がいた。それも全身ボロボロに汚れた姿で。
「あれ、そういえば帰り道にいなかったな」
「なにしていたんだ?おまえまで作戦無視か」
「誰ひとり心配しないわけ⁉」
伊作曰く、小平太と分かれて屋敷を調べている最中につかまり(ここに至るまで長い長い不運ドミノ話があったが割愛する)、小平太乱入時の騒ぎに乗じて逃げ出したのだという。
「あの手錠が足りないと言ってたの、伊作に使っていたのか」
合点がいったように留三郎が手を打った。
「にしても伊作は何もしてないからなあ……おまえは補習かな」
「そんなあ⁉」
無慈悲な教師の発言にせめて留三郎も一緒に!という声が聞こえたが、五人は伊作を置いて退室した。忍務後によく休息を取ることも忍務の一環だ。

 廊下を並んで歩きながら、留三郎は文次郎へ話しかけた。
「触れ合いも悪くなかったろ?」
「ありゃ忍務だったからやったんだ」
「強情っぱりめ」
呆れて留三郎が言うが、文次郎の耳が赤く染まっていることを認めて許してやろうと思ったのだった。

※後書きという名の言い訳※
古のオークションンパロをコメディチックにやりたくて書いたあらすじ。ちゃんと肉付けして改作したい思いはある。
善法寺くんの不運オチに頼ってごめん。

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