無考証・室町仙文。エイプリルフール記念SS。付き合っている二人だけど、あまり幸せじゃないので注意。って王道に飽きてる。
「好きだぞ文次郎」
会話の最中立花がさりげなく紛れ込ませた言葉に、潮江は気付かないふりをした。
今日は二人とも丸一日予定がなく、部屋に籠りきって過ごしていた。特段相方に用があったわけではない。示し合わせたわけではなくとも自然とそうなってしまう。六年い組にとって無言の数刻は当然のことで、居心地悪さは──少なくともここ二、三年は──まったく感じない。春の陽にふさわしく、ゆったりとした呼吸のような沈黙の中、二人は書き物をし算盤を弾き、あるいは武具を磨き、時たま独り言を呟いた。
午後の柔らかな光に誘われるように「団子でも食わないか」と同室の背中へ声をかけたのは潮江の方だった。
「言葉でくらい返してくれ」
「言うだけでいい。私が望むのはそれだけだ」
「……好きだ」
「ああ、文次郎」
「何も変わらないならいいだろうが……」
「おまえがそう思うように、私もそう思っているんだよ」
「級友として大事に思っている。誰よりも信頼している。それではいけないのか」
畳みかけるように立花が言った。
「では別れたとしてどうする?おまえは私と口も聞かなくなるか?部屋を分けるか?違うだろう」
「それは違うが……だったらいいじゃないか。おまえだって分かるだろう、六年も同室で暮らしてきたんだ。俺の言うことだっておかしくない……」
「堂々巡りだな」
パシリと膝を打ち立花が立ち上がった。
「変わらないのなら恋人という名前くらいくれてもよいじゃないか。だろう?」
惚れた方が負けなのだから、それくらい許してくれ、と。こういう時だけ寂しそうで幼子のようで、その表情とは裏腹に言葉はこちらを言いくるめる大人のものなのに、潮江は何も言えなくなってしまう。
「いいではないか。そうだ、今日はエイプリルフールと言うらしい。好きなだけ言っていいぞ。私は嬉しいしおまえは罵り放題だ」
「ほら『嫌い』と言えばいい。『別れたくて仕方がない』でもよいぞ。どれだけでも」
「俺はお前が嫌いなわけじゃない。そんなことを言いたいわけじゃない……」
歯切れ悪く潮江が呟く。
「遠慮は無用。おまえらしくもない」
畳みかけるように立花が促す。
「……好きだ」
「私もだ」
ぼんやりと庭を見つめる。頬に伸ばされる白い腕は見なかったことにした。そっと添えられた手の熱さも、微かに震える指が望むものも。
「……美しいな」
立花が嘆息した。潮江は黙って膝元の黒髪をすくばかりだった。ああ、の一言がどうしても言えなかった。庭を向く立花がこちらを伺う気配は分かっていた。立花がふっと笑う。
陽が少し翳り始めていた。