更新停滞・作品ほぼ消滅中

無題室町冒頭

屑籠収蔵庫

ジャンル外の人が読んでもわかるように書いてみようと試み、導入が長すぎてやめたもの。二次の強みを捨てるには筆力不足でした。モブ文に続く予定だったようです。

「さすがに今から三里の距離は急がないと間に合わねえな」
照りつける太陽をちらと見上げ少年が呟く。影の長さからして三時(これ直す)にはなっているだろう。早足で乾いた地を駆ける。小石や小枝が転がる荒い道を選ぶ。多少荒れていても近道がいい。
「鍛錬しなければな!」
どんな時でも、たとえこの灼熱の夏に余計な汗を流そうとも、忍たまたる者鍛錬すべし。それが潮江文次郎なのだった。

いつも通りの日常。いつも通りの一日。そして今日もそんな一日になるはずだった。

文次郎はふと顔を上げ、左目で茂みの影を捉えた。細く張られた麻糸がかすかに光に反射している。道を渡って左から右へ木の幹へ絡みつき、その仕掛けは「……俺がこれを踏めば煙玉が出る仕掛けか」偶然休んでいたから気付いたものの、歩いていたならば回避できない。ましてや走っていれば絶対に気付かなかっただろう。だが、ここまで巧妙に隠しているわりにこんな場所を張る理由が分からない。
気配はかすかにするが自分の間合いにはいないようである。その気配も殺気ではなく、ただそっと隠れて、楽しそうですらありそうな。
「何なんだ……」
不可解さに眉を顰めて後退すると、カチッと音がした。
「しまっ……!」
気付かなかったからくりにより煙玉が立ち込める。腰をかがめ咳き込んでいるうちに小柄な人影が側に立った。
「まだまだじゃな、潮江文次郎」
「学園長先生」
驚きながらも背筋を伸ばし学園長と対峙する。煙が晴れ姿を表した学園長は、愉快そうに眉を上げにやりと笑っていた。袴も上衣も木の葉と土埃にまみれ、髪の毛に小枝が刺さるその姿にかけた一言は、「そこまでして私に不意打ちを仕掛けたかったのですか?」やたら絡繰も凝っていましたし。
「いやなに、ちょいと楽しみたくなっただけじゃ」
学園長は井戸端にかけた文次郎の衣を手に取った。
「だいぶ鍛錬しておったようじゃな。まあわしには敵わんかったが」

「ちょいとおつかいを頼みたい。この時間で三里ほど離れておるが……おまえなら夜には帰ってこれるじゃろう」
「わかりました。すぐ支度して参ります」
文次郎は手拭いで素早く汗を拭うと長屋へ戻った。今日は特に暑い日だ。少し遠いがよい鍛錬になろう。心もち身を弾ませて同室の彼へ告げる。
「仙蔵。俺今日の夜実習ギリギリになるやもしれん」
部屋に入ると仙蔵は苦無の手入れをしているところだった。つややかな黒髪はいつも通り背に流れ、茹だるような暑さに耐えかねたのか上衣を脱ぎ、袴の足首まで捲り上げている。こちらを見やる視線も疲れ気味だ。
「何だ、用事が?」
尋ねつつも苦無を磨く手は止めない。
「今日は次に繋がる大事な実習だぞ」
「ああ、予習したいのはやまやまなんだが学園長のおつかいでな」
「そうか」
一度目を向けてからはこちらも見ず、次々と武具の手入れにかかる。
「気を付けて行けよ」
「ああ」
扉に手をかける際の挨拶も短く、しかし長年同室の気軽さと信頼の籠るものだった。

送信中です

×

※コメントは最大1000文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!