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93.洋風F(魔法世界)

屑籠収蔵庫

章の数→章の名前だけ決めて書こうとした残骸。なんか章で設定異なってない?…もはや忍者でも六年でもない(全部そうです)

はじまりの丘

冬は祭りの季節である。ふた月の短い間に、十三もの儀礼儀式が続く。それぞれ一日であったり丸三日を費やしたりあるいは数時間の短期間だったりと様々だが、人々がもっとも楽しみにする祭りは精霊渡りだった。
これは六百年前にはすでにあったという重要な神祭で、街はおろか国中の妖精たちが集まり湖面を歩く。女王のひと足ごとに凍る水の美しさは有名なバラッドになり、繊細な銅版画となり、巨大なタペストリーとなり、為政者の喜びとなった。

たっぷり時間をかけて宣伝されたこの祭りを一目見ようと観光客が押し寄せてくる。普段数百にも満たぬ街は人混みでごった返し、店は一年分の稼ぎを取ろうと十日間争うのだった。

賑やかな通りを一本奥に入れば打って変わって静かな裏通りになる。薬草店は今年ずっと閑古鳥が鳴いていた。もともと旅行客の目当てではないし、医療魔法もずいぶん発達した。昔は異国の珍しい薬を手に入れたいとか、道中野鳥に襲われたとか、祭りの間それなりに儲かったものだが。
「ルート販売どころか特急便まで始めちゃったからなあ」
薬草を卸す近隣のサービス店を思い、店番の青年はため息を吐いた。
「今日も売れないなら日雇い仕事アルバイト増やすんだっけか」
隣の青年は心からの同情を込めて言った。祭りの四日目にして入った客はたった三人なのだ。カウンターで日がな頬杖つく仕事は楽ではあるが。
「そうなんだよ、医局会ってなんであんな会費高いんだろ……こんな時に増やしてごめん、留三郎」
「俺がバイトするのか」
ぎょっとして留三郎は肘を起こした。
「だってお前の三日分で余分に人件費かかってるし」
「助っ人がいるっつったのは先生と伊作だろうが!」
「けど先生は喧嘩見張りに駆り出されたし、左近たちは車の点検だし、僕は急患があるかもしれないし。暇そうなのは金物屋だけじゃないか」
こちらが悪いかのように伊作は非難めいた調子で喋り続ける。
「一応仙蔵にも声かけたよ?でも今年は警備の仕事があるって」
昨日は一年間の占を執り行う厳粛な祭りでーそれも祭殿の話で、若者たちにとっては健康や安全や恋の行く末に一喜一憂するオマツリだがーこれを怠ると不運になると言われている。仙蔵が酔っ払いや盗人に手を焼いている間、留三郎はのんびりカウンターで酒を飲んでいたのだ。「わかった、留三郎?ちゃんと稼いできてよ?」しゃべり続ける伊作を前に、留三郎は初めて自分の不肖を悔やんだ。

***

「これが女神の故郷か」
眼下の湖を眺め、文次郎は意外そうに呟いた。
「我々の王神はここじゃ化け物扱いらしいぞ。『妖艶なる大地の魔、今年のおみ足は三日後!』だそうだ」
ガイドブックをめくりながら小平太が言う。

都のたつみ

海を持たない街の造りは似通っている。街全体を大きく取り囲む城壁、跳ね橋、中心に聳え立つのは堅牢な城だ。

森の奥深くにその館はある。小さな二階建てで、取り立てて言うほどもない石と土、わずかばかりの魔石を混ぜた煉瓦作り。
朝霧に覆われた庭に駆け込むのは小柄な少年だ。

「おはようございます先輩!」
「おはよう、団蔵」
「今朝はかなり寒かったんで、いっそのことと思って」
「おい……特急便の売り文句と違わないか」
恨めしげに三木衛門が声を上げ、
「潮江先輩はお好きですよね!包み焼き!包み焼きです!」
団蔵が急いで言葉を挟んだ。

三木衛門は不承不承といった面持ちで食べ始めた。
冬の分厚い氷の下に棲む川魚のパイ包み、細かく砕いた氷のシロップかけ、干魚の炭火炙り焼き、大小様々な豆の煮込み。
「……夏こそ贅沢ですが、冬の氷室ものは粋とは言えませんね」
左吉が苦笑いする。

都の貴族たちが所有する永遠の土地は、森のほんの片端のみ。文次郎は氷漬果物の貴重さを知ることもなく十まで育ったのだ。

「先輩、私たちはこれで」
「気を付けて帰れよ」
手早く荷物をまとめ二人が退出する中、三木衛門は困ったように佇んでいる。

ややためらって三木衛門は切り出した。
「サチコの調子が悪いのです。日々調整が必要なのは勿論ですが、……それだけではない気がします」

水晶宮

機織を生業とする男は少なく、せいぜいが女系一族の息子や婿養子くらいだ。彼らも手伝いに織る程度で、行商が本業だ。長次は驚きの視線に慣れっこだった。だから特注品の相談なんだが、そう当然のように話しかけられて、むしろこちらが驚いた。
「おまえ、織れるよな」
短く問うた男は眉をぎゅっと寄せ、こちらをまっすぐに見据えた目は不揃いでお世辞にも綺麗と言えないが、長次は美しいと思った。求める答えではないと知りながらも傍らの布地を手に取る。
「ただの布ではいけないか」
「駄目だ。おまえは知らないかも知らない。けど分かるはずだ」
きっぱりと言い切った男のどこに惹かれたのか。哀願も強要も何もなかったのに、どうしても望みを叶えたくなった。彼の求めるものが出来るまで一緒に旅することにした。

男は文次郎と名乗った。

長次は元来無口ではない。体を動かすことも得意だ。そう言うと文次郎は愉快そうに笑った。
「その身体で分かんねえ奴はいないだろう」
旅は問題なく続いた。最初の目的地は市場が盛んで旅人も多く、慣れない長次でも困ることはなかった。二人はおおいに楽しんだ。
「ついでに店でも覗くか」
文次郎の提案で薄暗い路地へ入った。といっても人々の熱気は変わらず、そこかしこで駆け引きが行われていた。分厚い毛皮のローブを頭から足まですっぽり覆う着物が珍しく、また暗い青や緑、鈍い灰色のロングドレスが目に付いた。長次が物珍しげにあたりを見渡すうちに、文次郎は懐紙を取り出すと思案し始めた。
「……何をしているんだ?」
数分見守っていた露店の競りが終わったところで文次郎へ声をかける。ことごとく負けた青年が肩を落として帰っていく、これもまた人生なり。
「いまどき大都会じゃ新聞ってのが流行でな。知り合いがちょっと詳しいから見せてもらったんだが、その時知ったんだ。えー、たしかこの辺りのはずだが……」
メモ書きには勿体無い淡紫の薄様をくるくると回しながら言う。
「……月に3回しか開けない?マジかよ……あ、これか!」
立ち止まった先には洒落た黒看板に『魔石工房・橘』と銀文字が刻まれていた。魔石という言葉には覚えがあった。
「人が作り出せるのか」
「詳しいか?」
「昔、本で読んだだけだ」
長次が十五まで過ごした私塾はかなりの蔵書数で、魔術の源流に関するものが多かった。とりわけ面白く何度も読んだ本がある。
「太古の学院を研究した博士の本だ。魔石を砕いたら潰したりして抽出しようとしても絶対に出来ない。かといって、同じような宝玉をいくら集めても効力はない。採掘するしか方法がないと」
「その通りだ」
少し離れたところから声がした。
「久しぶりだな、文次郎」

「本当は魔石を造っているわけじゃない。似せているだけだ」
仙蔵と名乗った男は二人を裏口に通すと、細長い工房の最奥に招き入れた。

「どうしても使えないクズ魔石を再利用できる方法を発明してさ」

龍舞

精霊女王に名はない。女王として生まれ、女王として生き、女王として死ぬ。そして新たな女王が現れる。
「支度が整いましてございます」
彼女らに仕える影の一人もまた名を持たない。古い盟約に忠実な一族は、たとえ人が滅びようとも精霊たちを守護する。

***

「バラッドを作っているんだ」
「吟遊詩人ってこと?」
「それは副業かな」
ちょっと聞かせようか、と利吉は竪琴を取り出した。逐一注文をつけて作り上げた、「弦が少なく響きもひそやかな楽器なんだよ。親父さんが普通もっと大きく煌びやかにと言われるのに、って逆に迷惑がっていた」
極細の四、五本を軽くつまびくと歌い出した。
「いい歌ですね」
三郎は感嘆の声を上げた。
「でも全然知らないな。いろいろ聞いてる方なんですけど」
「私が作った新作なんだ。これでも売れっ子作家なんだよ」
得意さを抑えきれない若さも彼の魅力だった。

「音楽が嫌いみたいでね。商売上がったりだよ」
「公主様がお嫌いですから」
肩をすくめて答えた。
「数十年前は直属音楽隊もいたんですが、公の義理の母君が音楽なぞ大嫌いって方で。宮の楽隊は解散、アカデミーは廃校、僕の友人も没落!です」
「それで他の国へ行ってしまったというわけか」
「ええ。おかげで古い歌しか残っていないんです」
だから利吉さんが来てくれて嬉しいですよ、と微笑んだ。

***

「龍舞?」
「文献にはないな」
「名前は好きだぞ」
「こりゃまた勇ましいこった」
「僕は知らないなあ」
五人が口々に言うと、文次郎は頭を抱えた。
「世界最高の魔術学院でもそれか」

「文次郎はその研究がしたくて来たのかい?」
伊作が興味津々といった面持ちで尋ねた。
「研究というほどではないが……まあ故郷でも有名だからな」

天の羽衣

「馬子にも衣装とはこのことだな」
満足げに仙蔵は言い、ちょっと離れて全身を眺めわたした。
「うん、誰もおまえが男だとは思わんだろうよ」
「男に見えないではなく女でなきゃ駄目なんだが」
「無茶を言うな」
苦々しげな文次郎をピシャリとはねのけ、仙蔵は仕上げに取りかかった。
「しばらく見ないうちにすっかりゴツくなって……だが色味は最高だぞ」

頭帯と腰帯は四五回も繰り返し染めた濃い藍色で、細い銀糸の縫い取りが施されている。正面で合わせる上衣の襟と袖口も同じ染料を使い、見頃はごく淡い空色に波型の地紋が浮かび上がる。「動きは大丈夫か?」仙蔵の問いに袖を振ってみせ、「どうも慣れんな。だが袴は変えてもらって助かった」膝丈のそれに合わせる袴は踝まであり、左右を足結で括り歩きやすくしてある。かたい木靴は内側に綿を詰め、バックルは青水晶と純水晶。一見地味だが、時間と手間をかけた逸品ばかりだ。

「あとは道具だが、昨日の時点で未完成らしくてな」
「はあ?今日を逃せば終わりだぞ」
「分かっている。あいつは約束を違える男ではない」

シルバー・ロード

最古の連合都市国家かつ最大の都市国家。数百年揺らがぬ繁栄を築くその国の周縁に位置し、叡智の集まる学生憧れの都市。
魔術の発展に寄与したものの、現在はすっかり寂れてしまった。旨みのない街で、それでも老舗を守る店がある。物好きが開く店がある。『佐吉工務店』はその両方だった。両隣の「伏木魔法店』『善法寺魔局』はよく分からなかった。
三人とも最難関の学院を卒業した先輩後輩の仲だが、横並びに店を構えた理由は偶然だった。同級生だった左の隣人とは今でも情報交換するが、善法寺とは在学中から特に話しているわけでもなく、挨拶をする程度で過ごしていた。伏木蔵いわく「あの学年の中ならすごく喋りやすい人だと思うよ」らしいが、わざわざ機会を設けるほどでもなかったのだ。
「文次郎さんのご学友だったんですか」
左吉は毎朝決まった時刻に帳を開ける。通りの中でも早い方だが、その日は扉を開けると善法寺が掃除していた。おはようございますの後、そういえばちゃんと話したことがなかったなと共通点を思い出す。
「彼が帰郷するまでだけどね。左吉はどうやって知り合ったんだい?」
「同じサークルだったんです。店はずっと持ちたくて、経営を学びたくて。意外と体力を使ったんですけど」
「もしかしてあの帳簿サークル?うわ、凄いね」
善法寺はお世辞でなく感心したようで、左吉の顔をまじまじと見る。
「左吉くんってまともそうに見えてMなの?」
「はい?」
「ほら、ここの店だってさ、お父上から継ぐ本店じゃなくて暖簾分けで出したんでしょ?苦労すればするほどイイ!ってことかなと」
なるほど温和な顔で穏やかならぬ話をするタイプの人間なのだろうか。

古き司

次に一行が向かったのは、岩と低木の丘が目立つ街で、「見るからに活気がない」

秘めごと

「一族というだけでは禁じられております。秘密を覗くことが出来るのは直系のそのまた一部……」
年老いた司がそう言った。
「幸運なことに魔術を修めておられない。間に合ってよかった」

再会

星樹祭

月廻記

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